講演 竹内欽一先生 (地球科学教授)

「ものみの塔統治体の論理と倫理について」(地震は増えているか?)

 私は四国の或る大学の理学部で地球科学を教えている者です。妻 がエホバの証人でしたが、二年前に救出に成功しました。

  カルトにはいくつかの特徴があります。例えば、信者自らによる 情報統制や、一般社会との物理的あるいは精神的隔離などです。ま た、カルトの信者間には強い信頼感が見られます。組織に属する人 たちには虚偽や欺瞞は無いと信じています。信者たちの教祖や指導 者に対する信頼は絶対的なものです。もちろん、エホバの証人たち も、指導者たちで構成される「統治体」に対して、絶対的な信頼を 置いていました。

  ところが最近のエホバの証人の間では、指導者たちに対するこの 絶対的信頼が揺らぎ始めています。ハルマゲドンの日付の変更や、 95年に行われた「世代の解釈」の変更によって、統治体の絶対的権 威も失墜し始めているのです。

  統治体が教義・解釈の変更や間違いの訂正をする時には、いつも 決まった言い訳をします。それは「統治体のエホバの証人も不完全 な人間だから間違いはある」という論理です。一般的にはもっとも な論理です。この言い訳を使い、教義の変更を「新しい光が与えら れた」として発表していくのが、統治体のやり方です。

  しかし、ハルマゲドンの日付だけを取り上げても、少なくとも五 回は変更をしています。問題は、これらの教えや解釈の変更を、単 なる間違いとして片付けてよいかどうか、という点にあります。す なわち、統治体による解釈の変更が、見落としや誤解あるいは勘違 いによるものなのか、意図的操作による確信犯なのか、ということ が問題なのです。この点の判断は難しいことがありますが、結論か ら言うと「統治体は確信犯である」と考えられます。

  地震に関しては、私の専門分野です。「ものみの塔」は地震に関 する情報を、出版物を通して信者たちに流してきました。この情報 を調べてみると、真実を知りながら真実を隠し、間違った情報をわ ざと与えてきた統治体の姿がはっきりとしてきます。今日は「もの みの塔」が主張する「地震の増加」を主に取り上げ、統治体の論理 と倫理について考えてみたいと思います。

  エホバの証人の教義を学んでみて気が付くことは、「今は終わり の時である」という特別な終末信仰が中心になっていることです。 学びの始めに使われる「永遠の命に導く知識」という本の11章にも、 あるいは以前の教材であった「あなたは地上の楽園で永遠に生きら れます」の18章にも、終末の教義が解説されています。

  これを読んでみると、『「終わりの日のしるし」が現代、特に1914 年以降に増加しているので、1914年以降が終わりの時である』とい う教義であることがわかります。聖書には「終わりの日のしるし」 の一つとして「そこからここへと……地震がある」(マタイの福音 書24章7節)と述べられています。

  そこで「ものみの塔」は今が終わりの時である証拠として、地震 の増加を主張しています。1984年出版の「新しい地へ生き残る」の 23ページ、また1989年出版の「聖書から論じる」の118ページに は「1914年以前の2000年間と比べて、それ以後の年間平均地震発 生率が20倍も増加した」と述べられており、いずれも地震の増加が 強調されています。

  「ものみの塔」の主張する「地震増加説」の根拠として、彼らの 引用している資料が二つあります。一つは全米地球物理学データセ ンターの資料であり、もう一つはマサチューセッツ工科大学の安芸 敬一教授の手紙です。

  全米地球物理学データセンターは実際に存在する権成ある研究所 です。ここのデータベースは誰でも調べることができるようになっています。私も実際に調べてみました。

  まず「ものみの塔」がこの情報をどのように伝えているかを取り 上げてみましょう。「聖書から論じる」の本の118ページには、こ のセンターの資料を引用して、次のように述べられています。

マグニチュード7.5以上あるいは、500万ドル以上の被害あるいは、100人以上 の被害があった地震の頻度は、1914年以前の2000年間では856回であった が、1914年以降69年間では605回であった。これは1914年以前の2000 年間に比ベ、それ以後の年間地震発生率が、20倍も増加したことを意味している。
  この説明を読むと、納得される方がいるかもしれません。しかし、 この文章にはいくつかのトリックが隠されています。注意して考え てみましょう。

  まず第一に、地震計が発明されたのが1880年である、という事 実です。地震計がなければマグニチュードを測ることはできません。 マグニチュード7.5以上の地震といっても、1880年以前は測ること ができなかったわけです。従って、それ以前に発生した大きな地震 であっても、マグ二チュードが分からないために、回数に含まれて いない地震があった可能性があります。

  また、このデータを見ますと、昔の地震の記録は特定の場所のあ る時期に限られていることが分かります。すなわち、人口がある程 度あり、地震を記録できる文化を持った所に限られている、という ことです。記録できる場所でない所に発生した大きな地震は、見逃 されている可能性があります。

  さらに、大きな地震が起こっても、人口が密集していなければ、 被害は少なくて済む、ということがあります。例えば、カリフォル ニア州オーエンズバレーで起きた1872年の地震は、アメリカで過 去150年間に起こった最大級の地震の一つと言われています。マグ ニチュードは8.0以上あったと推定されていますが、この地域は人 口密度が少なかったために、死者は27名だけでした。地震の強さと 地震による被害は、場所によって差があり、必ずしも相関するもの ではない、ということです。

  今世紀になってからの地震の情報は、かなり正確になっています が、19世紀以前の地震のデータは不完全です。たくさんの情報が欠 如しています。この事実を無視して、昔の地震の発生頻度と最近の 地震の発生頒度を、記録だけから単純に比較することは非科学的と 言えます。

  また 「ものみの塔」は1914年にこだわりますが、「ものみの塔」 のような比較をすれば、何も1914年でなくても同じ結論を出すこ とができます。フランス革命のあった1789年を境にしても、第二 次世界大戦が始まった1939年を境にしても、それ以前の2000年間 と比較すれば地震が増加した、と結論付けることができるのです。 このことから、地震のデータに基づいて1914年を正当化すること は、科学的根拠を隠れみのにした虚言である、ということです。

  統治体は地震のデータを誤解して、このような間違いを犯したの でしようか?しかし、それは考えられないことなのです。なぜなら、 引用している全米地球物理学データセンターの情報には、次のよう な注意書きがはっきりと書かれているからです。

この数字から誤った結論が出され易いので注意を要します。大型のあるいは破 壊の大きな地震の報告は、特に1900年以前には時間と場所に関して大きなば らつきがあります。ここに掲載した地震は主に死者や被害者を出した地震を中心 にしてあるため、報告される地震の数は、その地域に書かれた歴史が存在する か、どれだけ人口密度と建造物が発達しているかに大きく依存します。従って、 このデータを使って1900年以降、あるいはどの時代にでも、世界的な地震活動 が増加したことを統計的に示すことは誤っています。
  この注意書きを、統治体の人たちが知らなかったとは考えられま せん。 「1900年以降の地震の発生頻度が増加している」と結論付け ることは、間違っていると知っていたはずです。知っていながら事 実を隠し、都合の良いところだけデータを借用しているのです。

  安芸教授の手紙について考えてみましょう.教授は世界的に有名 で権成ある地震学者です。「ものみの塔」はこの教授の権威を利用 し、自分たちの主張の正当性を証明しようとしています。

  しかし、この引用は、教授の主旨とはまったく逆に用いられてい ます。私は安芸教授に直接お会いして、この事実を確かめました。 最初に「ものみの塔」が教授の手紙をどのように引用しているか確 認しましょう。1983年の「ものみの塔」誌8月15日号の6ページ には、次のように書かれています。

 ―部の地震学者は、地球は今地震の活動期にあると考えています。例えばマ サチューセッツ工科大学地球惑星科学学部のケイイチ・アキ教授は、1500年か ら1700年までの期間にも地震は活動期であったが「過去100年間に大きな地 震の規模と頻度が増大したことは明らかである」と述べています。
  この記事は、「ものみの塔」が安芸教授に出した質問に対する返 事として、教授が「ものみの塔」宛てに書いた手紙(1982年9月 30日付け)を引用したことになっています。では、実際の教授の手 紙には何と書かれていたのでしょうか。安芸教授から直接見せてい ただいた問題の手紙の全文は以下の通りです。
この手紙は1982年9月24日付けの、地震に関するあなたの問い合わせに対 する返事です。過去百年間に大きな地震の強さと頻度が増大したように見える のは、あらゆる点から考えて、地震の記録の仕方が改善したことと人間社会が地 震に対して被害を受けやすくなったことによります。この主な理由は、過去何百 万年の間、非常に安定した断層の動きを示す、よく確立された地殻構造によリま す。
地震の強さの尺度で被害の大きさよりも客観的なのはリヒター・スケールです。 百年以上前の地震に対してリヒター・スケールを当てはめることは一般に困難で す。しかし他の地震よりも歴史的記録が良く残っている中国に関しては、この試 みが行われました。同封した数字は、過去二千年間の中国における地震のリヒ ター・スケールを表しています。過去百年間は確かに活発でしたが、例えば 1500年から1700年の間も、これと同じように活発でした。
  実際の手紙を熟読していただければ、「ものみの塔」の引用の仕 方がよく分かっていただけると思います。安芸教授は、過去百年間 で地震の頻度が増えていると言ているのでしょうか?そうではな く、昔も今も地震の頻度は変わらないと考えていることを伝えてい るのです。

  頻度が増えているように見えるのは、地震の記録の改善と人間社 会が地震にもろくなったためであり、地震の頻度は増えていないこ とを伝えているのです。過去百年間の地震が活発であるように見え ても、昔も同じように地震はあったことの実例として、中国を挙げ ているのです。このような、著者の意図に反した引用は、「ものみ の塔」の欺瞞的体質を如実に表しています。

  「ものみの塔」の文献の引用の仕方を調べてみると、次のような 特徴のあることが分かります。1)資料の一部を直接引用する。2)調 べることが困難な文献を引用する。3)権威者を利用する。4)権威者 の主旨と違った結論を使う。安芸教授の手紙は、四番目の引用の仕 方の典型的な例と言えます。

  調べることが困難な資料を引用する例として、キリストの処刑に 関する問題があります。「ものみの塔」はキリストは十字架に架け られたのではなく、一本の杭であると主張します。その根拠として 16世紀のカトリックの学者リプシウスが著した「デー・クルケ・リ ブリー・トレース」という本を引用してきました。

  「ものみの塔」は長年、この本を引き合いに出して、リプシウス がキリストは杭で処刑されたことを説明している、と主張してきま した。十字架ではなく、杭による処刑が正しい、と教えてきたので す。ところが、この本の46ページ、647ページを見ると、全く逆の ことが書かれています。

  すなわち、イエス・キリストは一本の杭ではなくて、十字架に架け られたことがはっきりとこの本の中で説明されているのです。「も のみの塔」は簡単には調べることができない資料を使い、なおかつ 著者の結論とは全く逆の結論を出しているのです。「ものみの塔」はこのような引用の仕方をして、故意に間違った情報を信者たちに 伝えている、としか私には考えられません.

  また、間違いがバレタ時の「ものみの塔」の対応も、誠意のない ものです。エホバの証人が気が付かない間に、間違った情報を消し ていくのです。 『世の終わりのしるし』としての地震の増加も、い つの間にか出版物から消されていますし、きわめて重要な年とされ ていた1914年も「目ざめよ」誌から削除されています。

  このような事実から、統治体が信者であるエホバの証人を、いか に意図的に欺こうとしているかが、分かっていただけると思います。

  私が妻を救出した経過は、最初にまず「JWの夫の会」の存在をイ ンターネットで知り、入会したことに始まります。セミナーなどに も参加し、「ものみの塔」についての認識を新たにすることができ ました。また、救出活動が行われていることも知りました。

  やたらと反対ばかりしていてはいけないと分かり、「ものみの 塔」の大会に参加したりもしました。夫婦関係を良く保つために注 意しました。夫が優しくなったら気をつけるように、と妻は長老か ら注意を受けていたそうです。そして他の家族の協力があり、救出 が実行に移せたのです。98年の11月1日に救出を決行しました。 カウンセラーに説得をしていただき、五日目に輸血拒否カードを渡 してくれました。

  妻の救出を通じて、救出成功のポイントは1)「ものみの塔」の欺瞞を明らかにする。2)家族の愛情で支える。3)「ものみの塔」に代 わるものへの希望を与える。の三つにあると思います。

  最近、 『創(つくる)』という雑誌に、保護説得は拉致監禁であ る、とする記事が掲載されました。あまりにも家族の苦しみを無視 した、「ものみの塔」寄りの内容です。他に方法が無い場合、保護 説得は唯一残された救出方法です。自らの経験を通し、実際に必要 な救出方法であると確信しています。


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